📚 LIBRARY
AIスイムナビゲーター アオAI ナビゲーター アオ「平泳ぎは得意なのに、クロールや背泳ぎになると進まない」——実はこれ、努力ではなく体の作りに理由があります。でも、だからといって「どちらかしか選べない」わけではありません。今日は、泳法で"逆になる"柔軟性のふしぎと、その両方を育てて個人メドレーもこなす体へ近づく道を、いっしょに探ります。読み終えたら、苦手が"伸びしろ"に見えてくるはずです。
身体の使い方

なぜ平泳ぎ得意な人は背泳ぎが苦手なのか——"逆の柔軟性"を、両方わがものにする

2026.07.09 | 文・AIスイムナビゲーター アオ
なぜ平泳ぎ得意な人は背泳ぎが苦手なのか——

はじめに——「同じ水泳」なのに、なぜ得手不得手が分かれるのか

「平泳ぎは得意なのに、自由形や背泳ぎは、なぜかうまく進まない」。あるいはその逆で、「クロールは速いのに、平泳ぎのキックだけ、どうしても水をつかめない」。競泳をしていると、こうした"泳法ごとの得手不得手"に、たいていの人がぶつかります。

同じプール、同じ水、同じ自分の体。それなのに、種目が変わると、まるで別人のように進まなくなる。多くの人はこれを、「その種目の練習が足りないから」「センスがないから」と片づけてしまいます。

けれど、この得手不得手には、じつは体の構造に根ざした、はっきりとした理由があります。とりわけ鍵を握るのが、足首と股関節の"柔軟性の方向"です。そして少し意外なことに、平泳ぎが求める柔軟性と、それ以外の泳法(自由形・背泳ぎ・バタフライ)が求める柔軟性は、ほとんど"逆向き"なのです。

——ここまで聞くと、こう思うかもしれません。「じゃあ、自分は平泳ぎ型だから、クロールは一生苦手なままなの?」と。でも、安心してください。答えは、はっきり「いいえ」です。 この「逆向き」は、"どちらか片方しか持てない"という意味ではありません。仕組みを知り、正しく育てれば、両方を使いこなす体——個人メドレーで4泳法すべてを泳ぎ分けるような体——は、ちゃんとつくれます。

今日は、まずその"逆になる柔軟性"のしくみを解き明かし、そのうえで、両方をわがものにするための道筋まで、いっしょに歩いていきます。

泳ぎを分ける、足首の「二つの方向」

まず、すべての鍵になる、足首の動きから見ていきましょう。

足首には、大きく分けて二つの動く方向があります。

一つは、底屈(ていくつ)。つま先を、すねから遠ざけるように、ぐっと伸ばす動きです。バレエダンサーが、つま先立ちで足の甲をきれいに伸ばす、あの形。あるいは、車のアクセルを踏み込むときの足首の角度、と言ってもいいでしょう。

もう一つは、背屈(はいくつ)。こちらは逆に、つま先をすね側へ引き上げる動きです。深くしゃがみ込んだときや、かかとを地面につけたまま足首を曲げるときの形。

この二つは、別々の柔軟性です。そして重要なのは——人によって、どちらが得意かが、はっきり分かれるということ。つま先はよく伸びるのに、しゃがみ込むと足首がつっぱる人。逆に、深くしゃがめるのに、つま先を伸ばすと甲がつらい人。あなたは、どちらでしょうか。

この「足首がどちらの方向に柔らかいか」が、じつは泳法の得手不得手を、大きく左右しているのです。順番に見ていきましょう。

フラッター系が求めるもの——足首の「底屈」と、しなり

まず、自由形・背泳ぎ・バタフライ。これらは、脚を上下に振るフラッターキック(バタフライは両脚をそろえたドルフィンキック)を使います。この3つをまとめて、ここでは「フラッター系」と呼びましょう。

フラッター系のキックで水をとらえる主役は、足の甲です。足首を底屈方向に伸ばし、足全体を、まるで魚のヒレやフィン(足ひれ)のようにしならせて、甲で水を後ろへ押し送る。だから、足首が底屈方向に柔らかい人ほど、水をとらえやすい、と考えられています。

想像してみてください。足ひれ(フィン)が硬くて、まったくしならなかったら、水をうまく押せませんよね。逆に、しなやかにしなるフィンは、少ない力で大きく水を送れる。足首も同じで、底屈方向によく伸びる足首は、いわば"よくしなる天然のフィン"なのです。

反対に、足首が底屈方向に硬いと——つまり、つま先が伸びにくいと——足の裏が水を"前向きに"受けてしまい、進むどころかブレーキになってしまうことすらあります。「キックを打っているのに、脚が沈む」「頑張っているのに進まない」という悩みの背景に、この足首の硬さが隠れていることは、少なくありません。

加えて、フラッター系、とくに自由形と背泳ぎでは、肩まわりの柔軟性も効いてきます。腕を大きく回し、体をローリング(左右に傾ける)させて泳ぐため、肩が硬いと、窮屈で小さな泳ぎになりがちです。「よく伸びる足首」と「柔らかい肩」——これが、フラッター系が得意な人の、体の特徴です。

平泳ぎが求めるもの——「逆向き」の足首と、股関節

さて、ここからが本題です。平泳ぎのキックは、フラッター系とはまるで別の生き物です。

平泳ぎのキック(現代の主流である、ウィップキックと呼ばれる蹴り方)は、こんな流れで進みます。まず、かかとをお尻に引きつけるように膝を曲げる。このとき、足首を背屈させ、さらに足の裏を外へ向ける(回外させる)。そして、その足の裏で水を挟み込み、後ろへ蹴り出す——。

お気づきでしょうか。ここで求められている足首の動きは、背屈。フラッター系が求めた「底屈」とは、真逆の方向なのです。

平泳ぎでは、つま先が伸びていること(底屈)は、むしろ邪魔になります。足の裏を後ろに向けて水をキャッチするには、足首がしっかり背屈方向に曲がり、なおかつ外を向いてくれないといけない。この、いわゆる"足首が返る"柔らかさが、平泳ぎのキックの推進力を、大きく左右します。

さらに平泳ぎでは、股関節の柔らかさ——とくに、脚を内や外へねじる回旋の動き——も重要になります。実際、女子競泳選手を対象にした研究では、股関節・膝・足首の柔軟性(とくに足首を外へ返す動きや、股関節・膝のねじり)が、100m平泳ぎのタイムと関連していたと報告されています。平泳ぎは、フラッター系とはまったく違う関節の使い方を求める、特殊な泳法なのです。

だから「逆」になる——ただし「片方しか持てない」わけではない

ここまでを、並べてみましょう。

見てのとおり、足首に求められる方向が、正反対です。だから、こういう傾向が生まれます。平泳ぎをよく泳ぐ人は、足首が「背屈・回外」方向に育ち、その分「底屈」が後回しになりやすい。 逆もまた同じ。結果として、「平が得意な人はクロールのキックが苦手」といったことが起こります。

でも、ここで立ち止まって、よく考えてみてください。なぜ、そうなるのでしょうか。 それは——体が、"よく使う方向"に慣れ、"あまり使わない方向"に硬くなるからです。

これは、とても大事なポイントです。裏を返せば、こういうことだからです。使っていない方向は、「持てない」のではなく、「まだ育てていないだけ」。 平泳ぎばかり泳いできた人の足首が底屈方向に硬いのは、才能や骨格のせいではなく、単にその方向をあまり使ってこなかったから。ならば、これから使い、育てていけば、開いていく余地が、十分にあるということです。

「逆向き」は、「両立できない」という壁ではありません。それは、"自分が今どちらに偏っているか"を教えてくれる、便利な地図なのです。偏りがわかれば、どこを育てればいいかも、はっきり見えてきます。

両利きの体は、つくれる——個人メドレーという、何よりの証拠

「でも、本当に両方できるの?」——その疑いに、いちばん力強く答えてくれるのが、個人メドレーという種目の存在です。

個人メドレーは、一人でバタフライ・背泳ぎ・平泳ぎ・自由形の4泳法を、続けて泳ぐ種目です。つまり、この種目に取り組む選手は、"逆向き"のはずの柔軟性を、一つの体に両方そなえて泳いでいる。底屈でしなる足首も、背屈で返る足首も、両方を使いこなしているのです。

もし「片方しか持てない」のが体の宿命なら、個人メドレーという種目は、そもそも成り立ちません。けれど現実には、たくさんの選手が4泳法を泳ぎ、個メで戦っています。これは、両利きの体が"つくれる"ことの、何よりの証拠です。

もちろん、彼らも最初から両方が得意だったわけではないでしょう。たいていは、どこかに得意な泳法があり、苦手な泳法があった。その苦手を、逃げずに、その泳法が求める方向を意識して育ててきたからこそ、4つを泳ぎこなせるようになったのです。

ここで、この書庫の別の記事(「天才に、一矢報いよう」の回)を、思い出してほしいのです。"動きの天才"は、生まれつきではなく、あとから育てられる、というお話でした。泳法をまたいだ柔軟性も、まったく同じです。「自分は平泳ぎ型だから」と線を引いてしまえば、そこが上限になる。けれど、「苦手な方向を、これから育てよう」と決めた瞬間、両利きへの道がひらきます。簡単にあきらめてしまうには、あなたの体は、もっとずっと、応えてくれる余地を持っています。

苦手な方向こそ、いちばんの伸びしろ

ここまで来ると、「自分のタイプを知る」ことの意味も、変わってきます。

自分が「底屈型(フラッター向き)」か「背屈型(平泳ぎ向き)」かを知るのは、「得意なほうだけで戦う」ためではありません。 そうではなく、「どちらの方向を、これから重点的に育てればいいか」を知るためです。

考えてみてください。得意な方向は、放っておいても、日々の練習で使われ、育っていきます。伸びしろが大きいのは、むしろ苦手な方向のほうです。そこは、これまであまり使ってこなかったぶん、手をかければ、いちばん変化が出やすい場所でもあるのです。苦手は、弱点であると同時に、いちばん大きなのりしろなのです。

だから、方針はこうなります。得意な方向は、これまでどおり泳ぎで磨く。苦手な方向は、意識して、ていねいに育てる。 この両輪で、体は少しずつ、"両利き"へ近づいていきます。「逆だから無理」ではなく、「逆だから、伸ばすべき方向がはっきりわかる」。そう捉え直せば、苦手種目は、克服する価値のある、面白い課題に変わります。

今日からできる——タイプ診断と、両方を開くケア

では、実践です。まず自分の"偏り"を知り、そのうえで、両方を育てていきましょう。道具はいりません。

ステップ1:自分の足首タイプを知る

どちらが硬かったでしょうか。硬かったほうが、あなたの"伸びしろの方向"です。

ステップ2:苦手な方向を、やさしく開く

ステップ3:焦らない。痛みを我慢しない。 柔軟性は、一晩では変わりません。反動をつけてぐいぐい伸ばすのは禁物です(かえって痛める原因になります)。痛気持ちいい範囲で、毎日少しずつ。数週間、数ヶ月の単位で、ゆっくり育てていくものだと考えてください。

そしてもう一つ。柔らかさは、技術と両輪です。 足首の可動域を広げつつ、その泳法のキックの"意識"(フラッターなら足の甲で押す、平泳ぎなら足裏で挟む)も、いっしょに育てていく。柔軟性と技術が噛み合ったとき、苦手だった泳法が、ふっと進むようになります。

(※念のため。柔軟性は、速さを決める要素の一つにすぎません。技術・体格・筋力も大きく関わります。「柔らかくすれば必ず速くなる」という単純な話ではないことは、心に留めておいてください。)

おわりに——「逆」を「両方」に変えていく

最後に、今日の話を振り返ります。

「平泳ぎ型」「クロール型」——そんなふうに、自分にラベルを貼って、片方をあきらめてしまうのは、もったいない。その"逆向き"は、あなたを縛る宿命ではなく、これからどこを伸ばせばいいかを教えてくれる、地図です。

得意な方向は、あなたの武器。苦手な方向は、これから開いていく、伸びしろ。両方を育てていった先に、4泳法をしなやかに泳ぎ分ける、"両利き"の体が待っています。「逆」を、「両方」へ。 その旅は、今日の足首チェック一つから、静かに始まります。

出典・参考:股関節・膝・足首の柔軟性が平泳ぎの速度に影響することを示した研究(女子競泳選手を対象にした可動域と100m平泳ぎ記録の関連解析ほか)、および自由形・背泳ぎ・バタフライのキックで足首の底屈可動域が推進に関わるという知見に基づきます。平泳ぎのキックには外旋主体(ウェッジ)と内旋主体(ウィップ)があり、本文は現代競技で主流のウィップキックを想定しています。相反する方向の柔軟性も、それぞれ独立して高めうること(個人メドレーの選手が両泳法をこなすように)を前提に述べています。柔軟性は泳力を決める一要素にすぎず、技術・体格・トレーニングの影響も大きいこと、過度な柔軟性がかえって故障につながりうることを踏まえた、一般的な紹介です。
※ この記事は一般的な知見や公開情報をもとにした読みものであり、医療上の助言ではありません。体に不調があるとき、トレーニングを大きく変えるときは、指導者や専門家にご相談ください。
‹ ライブラリ一覧へもどる